みなさんは「波長」というものに興味を抱いたことがありますか?
例えば自分の右手を見つめてみましょう。
肌色の中にも赤い部分と黄色い部分が存在し、手相と呼ばれる皺はおり濃い茶色のように見えるでしょう。
しかしそう認識している「色」は、波長による脳の作用に過ぎません。
この色と波長の関係は、光でも同じことが言えます。
そんな光の中でも、今回ご紹介するのが水銀灯の光です。
LEDの普及によりその数は減ってきていますが、水銀灯の光はLEDにはない波長を持っており、大変興味深いものになっています。
今回は水銀灯の色や波長はもちろん、その波長分布についても詳しくご紹介していきましょう。
そもそも水銀灯とは?
ではそもそも水銀灯とはどのような発光源なのでしょうか。
水銀灯の仕組みとしては、ガラス管の中に水銀蒸気を発生させ、アーク放電と呼ばれる現象を起こしています。
そのアーク現象によって発生した放電を光放射に反射させることで、光を放っているのです。
中で蒸気が発生しているという仕組みを初めて知った方も多いのではないでしょうか。
そんな水銀灯は、高圧水銀灯と低圧水銀灯の2つに分類することができます。
一般的に「水銀灯」と呼ばれるものは高圧水銀灯を指し、医療用として利用されている水銀灯などは別名「太陽灯」とも呼ばれています。
それでは水銀灯の種類別に、その特徴を挙げてみましょう。
【高圧水銀灯】
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- 二重管構造になっているものが多い
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- 水銀蒸気圧は105~106Pa
- 幅広い紫外線領域の線スペクトルを持つ
【低圧水銀灯】
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- 分光器の波長の校正などに用いられる
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- 水銀蒸気圧は1~10Pa
- 水銀の共鳴線とも言われる184.9nmと253.7nmが強力に放射される線スペクトル光源
ちなみに高圧水銀灯の上をゆく超高圧水銀灯というものもあります。
こちらの水銀蒸気圧は106Pa以上もあり、そのほとんどが2×106Pa以上のものです。
またこのような強力は水銀蒸気圧を封入した水銀ランプは、他の水銀灯よりも長寿命で、安定した放射強度があります。
他にも高輝度であること、また紫外線量が多いことも特徴です。
水銀灯の主なスペクトル線の波長については、下記の表を参考にしてみましょう。
水銀のおもなスペクトル線の波長 | |
波長(nm) | |
253.652 | 407.781 |
275.278 | 434.750 |
296.728 | 435.835 |
302.150 | 546.074 |
312.566 | 576.959 |
365.015 | 690.716 |
404.656 | 1013.980 |
人は光の波長で色を認識している
可視光線とは?
さて、水銀灯の仕組みを知って頂いたところで、光の話に戻しましょう。
冒頭で「色は波長による脳の作用」と言いましたね。
例えば昼間に綺麗に咲く桜を見たら、あなたは「綺麗なピンク色だ」と認識するでしょう。
しかし夜になって暗い中で見ても綺麗なピンク色に見えますか?目を閉じて見上げて色が認識できますでしょうか。
よほどの頑固者でもない限り「昼間見た色とは違って見える」と答えるでしょう。
まるで物に色がついているように感じるかもしれませんが、実はそうではありません。
光が物に反射することで、その反射した光を「色」だと認識するのです。
つまり色は照明元となる光源と物体と人の目、この3つによって知覚されるひとつの「現象」なのです。
そんなただの現象でもある色ですが、面白いことに人間の目には見える色と見えない色があります。
これには波長が大きく関係しています。
ちなみに見える色のことを「可視光線」と呼びますが、この可視光線とは、人間の目で見える波長のことを指します。
この「見える波長」こそが、我々が感じている「光」なのです。
JISが定めた定義によれば、可視光線に相当する波長はおおよそ360-400nmとされています。
これが宇宙など遥か上界では、おおよそ760-830nmまで伸びます。
この「可視光線=見える波長=色」は、その波長が短くなっても長くなっても、我々の目には見ることができなくなります。
下記の図を見てみましょう。
ご覧のように、可視光線と呼ばれる範囲はとても狭いのです。
ちなみに波長が短くなれば日焼けの原因でもある紫外線(紫色)になり、波長が長くなれば物を温める作用のある赤外線(赤色)になります。
波長分布で色の見え方は変わる
上記の図を見て頂いてわかるように、波長分布によって認識できる色は変わります。
光源と言えば太陽光に蛍光灯、LEDに水銀灯など様々ですが、その全てが380nm~780nmの範囲の光を含んでいます。
しかし波長が物体に当たったとき、その物体がどのようにその波長を反射するかによって、目に見える光の性質は変わります。
例えば赤い物体の場合です。
赤には「短い波長の光(紫寄り)を吸収し長い波長(赤寄り)の光をよく反射する」という性質があるため赤色に見えています。
これが緑色の物体になれば、緑には「短波長の光(紫)と長波長の光(赤)を吸収する」という性質になるため、中波長の光(緑)の緑色に見えるのです。
水銀灯は光源の中でもスペクトル範囲が広い
水銀灯のスペクトル線には、「他の光源よりもその範囲が広い」という特徴があります。
下記の図を見てみましょう。
ご覧のように、ヘリュウムに次いで2番目に広い範囲となっています。
どちらかというと紫寄りの範囲が広くなっていますので、「波長は短め」ということが言えるでしょう。
波長の色は何色?
では水銀灯の波長は何色なのでしょうか。
上記の図を見て頂いてもわかるように、水銀灯は波長が短めの範囲で広いスペクトル線を描きますので、寒色系の色ということになります。
学生の頃の体育館を思い出してみてください。下記の画像のように、ほんのり青白かった記憶はありませんか?
これは波長が短めだという性質から、寒色系=青白く見えているのです。
そして水銀灯に含まれる波長の幅を示したのが下記の表です。
これを見てもわかるように、1番強い波長部分は254nmという数値です。
可視光線は360nm以上ですので、人間の目にこの波長は見えていません。
しかし先ほど「波長が短くなると紫外線になる」と言ったのを覚えてますでしょうか。
そう、水銀灯には強めの紫外線が含まれているのです。
ちなみに254nmという短波長の紫外線は、本来オゾン層でカットされるレベルの強さです。
日焼けサロンなどで使われている紫外線が大体280-320nmくらいとなっていますので、その強力さがわかるでしょう。
とはいえ水銀灯の光がそんなに人体に有害なのかというと決してそんなことはありません。
もちろん水銀に強力な紫外線が含まれていることは周知されていましたので、ガラス管面の蛍光物質で紫外光が可視光に変換される仕組みが取られています。
しかもガラスそのものが短波長の紫外光を通さない性質を持っていますので、ほぼカットされてしまい漏れることはありません。
水銀灯をよく使用していた筆者のような世代では「水銀灯ばかり浴びていると日焼けする」という噂というか説がありました。
もちろん多少は紫外線を浴びることになるため、全く日焼けしないとも言い切れませんが、今になって波長への知識を持ってみれば、恐らくそれは「水銀灯には強い紫外線が含まれている」ということからくる誇張だったのでしょう。
水銀灯の波長は短めだけれど広範囲のスペクトル線を持っていた
ここまで水銀灯の波長を含む光と波長の関係をご紹介してきました。
いかがでしたでしょうか?
「物には色がある」と思っていた方には中々衝撃的な内容だったのではないでしょうか。
そして紫外線や赤外線も波長の都合で人間の目には見えていないだけで、本当ならばその名の通りの色がついているという事実も驚きでしたね。
ガラスで遮断されてはいるものの、「水銀灯には強力な紫外線が含まれている」ということから、2020年からは新たな生産が禁止される「水銀による水俣条約」が施行されます。
それにより今後さらに水銀灯を目にすることは減っていくでしょう。
今残り少なくなっていく水銀灯を見かけたら、ぜひ今回の情報を思い出し、青白いその光を見上げてみましょう。